東京高等裁判所 昭和26年(う)2221号 判決
記録を調査すると本件起訴状の公訴事実の記載として引用してある起訴状添附の根崎五郞詐欺犯罪一覧表には1乃至9の事実が記載せられ、且つ最下段の備考欄に1については遊興、2については現金は費消オーバーは売却、3乃至6及び9については売却、7及び8については費消と記載されていることは所論のとおりである。所論は右備考欄の前記のような記載は裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞があるから、かような記載を包蔵している本件起訴状は刑事訴訟法第二五六条第六項の規定に違反し無効のものであるから原審は同法第三三八条第四号に則つて判決で公訴を棄却しなければならないのに、本件公訴を受理して審理判決したのは違法であると主張するけれども、所論の一覧表中の備考欄の各記載の程度では未だこれを以つて刑事訴訟法第二五六条第六項にいわゆる裁判官に事件につき、予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用したものに該当するとは認められないから原審が本件記訴状に基いて審理判決したのは相当である。論旨は理由がない。
同第三点について。
所論に鑑み原審第二回公判調書を調査すると、検察官は同公判廷において前記犯罪一覧表中3記載の犯罪(勝田雄吉に対する詐欺)月日が昭和二五年一二月一一日とあるのを昭和二五年一一月一一日頃と訂正すると述べたことが認められるから、検察官は特に右犯罪は昭和二五年一一月一一日頃に行われたものとして審判を請求したものと解するの外はない。しかるに原判決は第一の(五)において右犯罪は同年一二月十日頃行われたと認定しているので審按するに、起訴にかかる犯罪の日時と多少異なる日時を認定することは敢て訴因の変更等を要しないことは判例の認めるところではあるけれども、本件の如く検察官が先に起訴状に記載した犯罪の日時を特に一ケ月も変更しているような場合は右変更した日時における犯罪が認められない場合は犯罪の証明なきものとして無罪を言渡すか、或は更に犯罪日時の変更を命ずるか、若しくは被害者を尋問して日時を明らかにする等審理を尽して然る後に始めて判決の言渡をなすべきものと思料する。然るに原審は審理をつくさず、しかも審判請求の日時よりも一ケ月も異る日時における犯罪を認定したのは審判の請求を受けた事件につき審判せざるか又は審判の請求を受けざる事件につき審判をした違法があるものといわざるを得ないから論旨は結局理由があり、原判決は他の論旨に対する判断をなすまでもなくすでにこの点において破棄を免れない。